
この記事は上司にメールでお礼をするときに気を付けたいことを取り上げます。
普段から「英語は日本語に比べて上下関係がない、フレンドリーな言葉」というイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、仕事の場面では上下関係を意識した敬語的な言い回しがあります。
またメールは口頭でのやり取りと違って、一旦手元を離れてしまうとどこに転送されるかもしれないので、失礼は極力避けたいものです。
最後まで読んでいただくと、英語でも日本語でもお礼を書くときのコツがわって、迷うことなくメールを書けるようになります。
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上司には使わない「Please」「ASAP」「サポート」
数年前のこと、大手外資系IT企業でワークショップをしたことがあります。
ある事業部の役員と管理職層の間にあるコミュニケーションに関する課題解決のワークショップでした。事前に取材にうかがって話を聞かせてもらうと、役員層と管理職層の間でやり取りが滞る。その結果仕事が進まない。
管理職は「役員が動いてくれない」と怒りを溜めていて、一方で役員は「管理職は説明はするが具体的に何をして欲しいのかわからない」とお互いにモヤモヤしていました。
「これをいつまでにこんなふうにしてください」とハッキリ言われない限りお願されたとは思わない英語系文化*と、説明を尽くせば、言わなくても相手が必要を察して動いてくれるのが当たり前の日本人的な企業文化との間にある深い溝が起こしたお互いに対する不信感でした。
*一部、アジアにはハッキリ言わなくても察する文化の人たちもいます
さらに役員側からはお願いを解決した後についてのモヤモヤもありました。
役員が苦笑いしながら話してくれた2つのことがあります。それがこの記事のメインテーマの一つです。
1. PleaseとASAPは目上の人には使わない
役員が打ち合わせから帰ってきて自分のデスクの上のイントレイに書類を見つけました。その書類の上に3M社のあの有名なポストイットが貼ってあったそうです。
Please sign “ASAP”
Please sign “ASAP” ➡ As soon as possible の略
これ、上司に対しては絶対に使いません。
まず、Please には丁寧さはあっても強制力があるので自分より上の人に対しては使いません。せいぜい Could you please ~なら片目をつぶって使うのが許されるところです。
更に上司に「すぐやれ、今やれ、早くやれ」も仕事の順番を指示するのに等しく、強い強制力があります。
ここでなぜ「強制力」を嫌うかということを解説します。
世界中にネットワークを持つ多国籍企業の場合(いわゆる大手外資系企業)、ポジションが上に行けば行くほど、カバーする仕事の範囲が広く、常に世界の組織のどこかが仕事を先に進めているため、責任を全うするには時間管理がカギになるからです。
その為に日々の業務に瞬時に優先順位を付け、重要で急ぎの案件から取組みます。そんな中に突然、部下から ASAP と仕事を持ち込まれたらどう感じるでしょうか?決して快く引き受けられないですよね。
2. 目上の人にはThank you for your supportではなくThank you for your helpが正しい
これはメールでのやり取りの失敗であるため、当事者間しか知らないことです。めったに表沙汰にはなりません。
あるとき、その役員が自分の部下のメールに返信してアドバイスをしてあげたところ、返信の最後に
Thank you for your support. (サポートありがとうございます)
と明記してあったそうです。
上位ポジションの役員からアドバイスをもらって「サポートありがとう」なんて普通は言いません。
サポートとは「support 」という言葉を分解した su-port が示すように「su = 下から支える」という意味です。
上の方に対するお礼は Thank you for your help が適切です。上からしてもらうお手伝いは「お助け」です。
日本語にもよくある間違い「参考になりました」
数年経った今でも、ときどきその外国人役員の苦笑いを思い出していたところ、日本人のやり取りの中で、そこにピンっと頭の中でつながったことが最近ありました。
それは目上の人に質問に答えてもらったとき、何か教えてもらったときに
「大変参考になりました」
という、日本人がお礼の意味で感想を表すときの決まり文句。目上の方に何か教わったら「勉強になりました」が正しいのです。
なぜなら「参考になりました」は元々自分で高度な知識を持っていたので、あなたのお話は私にとって「参考程度です」という意味になるのです。受け取ったものが貴重で、自分の知識よりレベルが高ければ「勉強になりました」または「勉強させていただきました」が正しいです。
英語で仕事をしていて一見フレンドリーに見えても敬意を表す表現は大切
英語という言葉に対してのイメージは「フレンドリーで上下関係がない」というものではないでしょうか?普段のやり取りではおおむねそうです。知り合ってすぐにファーストネームで呼び合う、仕事の会議で自分より格上の方に反対意見、異なる考えを延々戦わせることも少なくありません。
ですが、英語にも敬語表現はたくさんあり、仕事をする上ではそれら表現を使いこなすことが大切になってきます。
上司が部下に仕事を頼むときや理由を正すときも相手の気持や事情に配慮しながら日本語の敬語にあたる言い方をします。
【理由を聞く時】
Could you please tell me what makes you think that way?
※Why do you think ? という理由の聞き方は責めているような印象があるので避ける。代わりにWhat makes you ~? (なにがあなたをそうさせるのか?)という聞き方がお勧め
【方法を聞く時】
Would you please tell me how we can reach you while you are out of the office?
※Would you please?は「相手の意志」をハッキリ問いながらも丁寧な表現なのでおススメ
【期限のある報告書を頼む】
Do you think you can finish this report by five this afternoon?
※相手の状況に配慮しながら「5時までに書き終わることは可能ですか?」という聞き方は、だれが読んでも、聞いても、丁寧
日本人同士の職場のように「オマエ、これ、いつものようにやっといて」のようなことは25年間、英語の職場にいて一度も聞いたことがありません。名前で呼ぶのが常識で、相手の都合も確認しながら仕事を頼みます。
>>英語での上司の呼び方
また、複数人で話をしている時に、本人の前でその人のことをShe/Heと呼ぶのも失礼です。このような英語のマナーは学校では習わないので、なかなか知らない人が多いですよね。詳しく説明した記事があるので読んでみてくださいね。
【英語のマナー】本人の前でその人をShe/Herと呼ぶのは失礼>>
仕事の仕方は世界標準(Global Standard)に向かう
今までのように日本は日本、外国は外国、と仕事の場所を分けられていた時代は、それぞれの国の文化によって言葉遣いや敬意の表し方を使い分けるということで特に問題はありませんでした。
でも、昨今のように個人が直接ライブで参加するオンラインでの会議や英文メールでのやりとりが増えてくると「ここまでは日本式」と境界線を引くことが徐々に難しくなってきます。
変化することに柔軟に合わせていける方もいれば、変化が怖い、できれば避けたいという方もいらっしゃることでしょう。
ひとつの考え方として「ピンチはチャンス」と捉え、今まですべて日本式で来たけれど、今この時流に合わせて、仕事をしながら違う文化の人たちと英語をやり取りする際のマナーを学ぶのも良いかと思います。
この記事を書いた人

仕事の英語パーソナルトレーナー
HR Specialist
河野 木綿子(こうの ゆうこ)
ロンドン大学 Goldsmiths College
心理学部 大学院卒業
25年間大手外資系企業の人事部に勤め、人材開発の専門家となる。その経験とロンドン大学大学院で学んだ学習理論と効果測定を活かし、日本で第1号となる仕事の英語パーソナルトレーナーを2014年に開業。
著名人含む約90名を、仕事の英語デビューに導いてきた実績を持つ。
【保有資格】
・ケンブリッジ英検
・IELTS 7.5 ※旧英連邦の英語4スキルテスト
・英国心理学協会の能力・適性テストの実施資格
※企業で面接、適性検査、能力検査を実施する資格