はじめに:グローバルビジネスにおける文化的背景が異なる人への配慮の重要性

今では海外企業との提携や国際的なプロジェクトは日常的な光景となりました。
諸外国とのやり取りが増えたとはいえ、いまでも自社のアメリカ組織や、アメリカ企業との協業機会が多いのではないでしょうか。
そんな中で皆さんが直面する課題の一つが「初対面のアメリカ人ビジネスパートナーと良い人間関係を築くためのコミュニケーションスキル」
かもしれません。
英語力は確かに重要ですが、それと同じくらい、またはそれ以上に重要なのが相手の文化への配慮です。
日本では親近感がわいて、相手との距離を縮めるためによく取り上げるトピックが、アメリカのビジネス文化においては
逆効果になってしまうことがあります。私自身も失敗したことがあります。
先方から聞かれてもいないのに個人的な問題について話してしまい、後で「どうしてあの時、あんなことを言ったの?」と聞かれました。
今になってみれば「なるほど」と思うことですが指摘してくれた人には感謝しています。
そんなこともきっかけの一つになって、この記事ではアメリカ人ビジネスパートナーとの初対面、例えばお迎えしての食事の席や、
コーヒーブレイクで避けるべき5つの話題と、逆に人間関係がスムーズに築ける話題について、文化的理由と実例を詳しく解説いたします。
これらの知識を身につけることで、きっと人間関係と仕事をスムーズに始められることでしょう。
文化の違いを理解することの意義
日本とアメリカのビジネス文化には、根本的な違いがあります。日本では「和」を重視し、
共通の苦労や失敗談を共有することで人間関係を深める傾向があります。
一方、アメリカでは個人主義が強く、プロフェッショナリズムと個人のバウンダリー(境界線)を
明確に区別する文化が根付いています。
この違いを理解せずに日本流のアプローチをとってしまうと、相手に不快感や困惑を与えてしまい、
せっかくのビジネス機会を逃してしまう可能性があります。
「英語が通じても、価値観の違いに無頓着だと『この人とは仕事をしたくない』と思われることもある」
という現実は無視できません。
避けるべき5つの話題とその理由
1. アルコールでの失敗談:想像以上に深刻な問題
日本のビジネス文化において、飲み会は重要なコミュニケーションツールです。
上司や同僚のお酒での失敗談は、場を和ませ、親近感を演出する効果的な話題として扱われることが多いですね。
「あの人、ちょっと怖そうだけれど、そんな可愛らしいところがあるの?」とその場が和んだりします。
しかし、アメリカでこのような話題を持ち出すことは、極めて危険な行為と言えます。
統計によると、アメリカ人の約10人に1人がアルコール依存症に悩んでいるという現実があります。
これは決して軽視できない数字で、あなたが話している相手自身、あるいはその家族や友人が、
アルコール関連の深刻な問題を抱えている可能性が高いということで笑い話になりません。
私の知り合いから直接聞いた話です。
ある日本企業の管理職の方が、アメリカからのビジターに対してメンバー紹介の際に
「部長のお酒の上での失敗談」を紹介したところ、会議室が一瞬にして静寂に包まれてしまったそうです。
その場にいた全員が気まずい思いをし、その後の商談に支障をきたしてしまいました。
どんな話だったかと言うと
「部長は、こんなおっかない顔をしていますが、実はお酒を飲むと面白いおじさんになります。
先月は夜中に酔っぱらって帰ったら、奥さんにロックアウトされたそうです」
相手が日本人だったら、多くの人が「へええ、意外な一面がある人間臭い人だ」と親しみさえ覚えたでしょう。
さらに、アメリカには宗教的理由で一切飲酒をしない人々も多く存在します。キリスト教の一部の宗派では
飲酒を禁じているほか、イスラム教徒も飲酒をしません。アメリカの多様性を考慮すると、アルコール関連の話題は
「自己管理ができない人」「プロフェッショナルではない」という印象を与えるリスクが非常に高いのです。
2. 政治の話:分断が深刻化する現代アメリカの現実
アメリカの政治状況は、日本人が想像する以上に複雑で感情的な問題となっています。
共和党と民主党の支持者間には深い溝があり、政治的立場の違いが家族関係にひびが入るケースも
珍しくありません。
この分断の深刻さを示すエピソードとして、YouTube動画で宅配便の配達員が、配達先の庭先で
自分の支持政党と対立する政党の旗を引き抜いて投げ飛ばす様子を、防犯カメラがとらえた動画を
観たことがあります。
これは極端な例かもしれませんが、政治的対立がいかに日常的で、感情面に影響を与えているかがわかります。
日本人の感覚では、トランプ大統領やイーロン・マスク氏の話題などは「面白いニュース」として気軽に話題に
できそうですが、アメリカ人からすると、私たち外国人が不用意に面白がって話のネタにしたら感情を
逆なですることになるかもしれません。日本人もご近所の国から歴史についてコメントされるのは楽しくないですよね?
政治的な話題は、たとえ親しい関係になったとしても慎重に扱うべき分野です。初対面のビジネスシーンでは
なおさらのこと、絶対に避けるべき話題と考えるのが賢明でしょう。
3. お金に関する話:自己責任社会における価値観の違い
日本のビジネス文化では、初対面で「苦労自慢」や「貧乏自慢」を通じて親しみを感じてもらおうとすることが
あります。「今は成功者と言われていますが、昔は電車賃がなくて歩いて面接に行ったことがあります」といった類の話は、
日本では美談として受け入れられ、相手との距離を縮める効果的な手段とされています。
しかし、アメリカは典型的な自己責任社会であるため、経済的困窮は個人の努力不足や計画性の欠如として
捉えられがちです。アメリカンドリーム文化では、高い目標を達成することがよしとされ、成功談やポジティブな話が
好まれます。
過去の貧困や借金などの具体的な話は、相手に「この人は計画性がない」「リスク管理ができない人物」という印象を
与えてしまう可能性があります。これらの話題は、親しくなってからでも避けた方が良いと考えるべきでしょう。
代わりに、困難を乗り越えて成功を収めた経験や、チームワークで問題解決ができた体験談など、ポジティブで建設的な
話題を選ぶほうが、また会いたい、話を聞きたいと思ってもらえそうです。
4. 健康や精神的な問題:TMI(Too Much Information)という概念
アメリカには「TMI(Too Much Information)」「情報過多」という概念があります。
これは関係性によって適切な情報開示レベルがあるという考えで、初対面でプライベートすぎる情報をやり取りすることは
避ける傾向があります。。
日本では、自分の弱さや困難を率直に話すことで相手の同情や理解を得ようとする傾向がありますが、アメリカでは
初対面で「うつ病で休職していた」「パニック障害で苦労した」といった話をすると、相手は「なぜ初めて会った人から
個人的な話を聞かされるのか」と困惑してしまいます。
またアメリカは訴訟社会でもあるため、個人的な問題に関わることを避ける傾向が強く、「面倒なことに巻き込まれそう」
という警戒心を抱かれがちです。健康問題や精神的な課題について話すことは、職場での差別につながるリスクも
あるため、慎重に扱われるトピックです。
5. 家族の問題:Family Valueの重要性と踏み込んでいい範囲の概念
アメリカでは「Family Value(家族を大切にする価値観)」が非常に重視されています。
特に保守的な地域*では、伝統的な家族像が理想とされており、家族の結束や絆が個人の人格を
評価する重要な要素として考えられています。
(*中部・南部・ロッキー山脈周辺の農村部)
そのため、「両親が離婚した」「兄弟と仲が悪い」といった家族の問題を初対面で話すことは、
相手に不快感を与えるかもしれません。これらの話題は、相手の価値観によっては「家族を大切にしない人」
「問題のある家庭環境で育った人」という印象を与えてしまうかもしれません。
アメリカのビジネス文化では「踏み込んでいい範囲」があることを意識しましょう。プライベートな問題には突然踏み込む
事は避けて、信頼関係ができてから必要に応じて少しずつ話すのが常識的です。
初対面で良い人間関係につながりやすい話題は?
ここまで避けるべき話題を複数取りあげましたが、では代わりに何を話せば良いのでしょうか。
結論から言うと、アメリカ人は初対面の相手に対して、明るく前向きな印象を与えることを大切にする傾向があります。
また、お互いの緊張がほぐれて暖かい雰囲気ができるのは社交辞令の質問よりも、相手に純粋な興味を示すことです。
人間は、自分に興味をもって話を聞いてくれる人には好感を持ちやすく、心を開きやすいものです。
以下のような話題は、タブーに触れることなく、会話が盛り上がるきっかけとなるでしょう。
1.業界の動向や技術革新について
お互いの専門分野における最新のトレンドや技術についての話はプロフェッショナルな印象を与えながら、
お互い共通の関心事を見つける良い機会になります。
例えばあなたが人事の教育関連の職種だったら、社内の人材開発にどの程度AIを扱うスキルを取り入れるか。
また、採用関係者なら、AIで面接の事前のスクリーニングがどの程度できるか?多くの担当者は興味がありそうですね。
さらに、そのスキルを身に付けるために担当者の教育をどうするのか、とその理由など。考えるだけで相手の知見を聞きたく
なってワクワクしませんか?
想像や可能性の域を出ない話であっても、不安やグチの話より前向きで印象に残りいやすい話題の一つと言っていいでしょう。
2.今、目の前にいる相手に対する配慮を言葉で伝える
もし相手が遠い距離を移動してきたばかりだとしたら、フライトが快適だったかどうか、時差ボケ(Jet lag)は
辛くないか、など思いやりの気持ちを言葉で伝えると相手の緊張感や不安を和らげるので
その場が和んで話しやすくなります。
仕事とは直接関係がないので、本来口に出す必要がないことを敢えて言葉にして伝えることで相手への配慮が
伝わって心の距離が縮まることでしょう。あなたへの好印象につながり、それ以降の人間関係にプラスに働きます。
3.スポーツや趣味の話
もしビジネス以外の話題をしても問題のない雰囲気であれば、共通点を見つける安全な話題として
スポーツや趣味の話をするのも心の距離を縮めるよいトピックです。
話の始め方はこんな風に問いかけてみましょう。
「お時間があるときは何をして過ごしているんですか?」
What do you do in your spare time? または
What do you enjoy when you have time?
などの質問のし方が良いでしょう。よく
What is your hobby?
という聞き方を耳にすることがありますが、英語で hobby と言うと日本語の趣味より
もっと専門的で、時間やお金をかけるもののことを指します。
アメリカではスポーツが重要な文化の一部となっており、特にアメリカンフットボール(NFL)、
バスケットボール(NBA)、野球(MLB)は多くの人が関心を持っています。
「どんなスポーツが好きですか?」
What kind of sports do you like?
Do you play or follow any sports?
「何かスポーツをする、あるいは観ていますか?」
Do you play or follow any sports?
「どちらのチームを応援されていますか?」
Do you have a favorite team?
Are you a fan of any team?
たとえ自分がそのスポーツに詳しくなくても、
「それは面白そうですね。どのようなところが魅力的なのですか?」といった質問で会話を深めることができます。
まとめ
ここまでお読みいただきありがとうございます。いかがでしたでしょうか?
私たち日本人が相手との関係を深めるためにする日常的な話題が、アメリカ文化で生まれ育った人にとっては
タブーだったりします。
この記事ではアメリカ人をとり上げましたが、実は世界の文化圏は他にいくつもありその数だけタブーがあります。
したがって英語を共通語としてコミュニケーションが取れるのは便利ですが、同様に相手の文化的背景も調べておくと
仕事に役に立ちそうです。また個人的に親しい関係にも発展するかもしれません。
このテーマでYouTube動画を作りましたので気になる方は以下の動画タイトルをクリックしてご覧ください。
【絶対NG】初対面のアメリカ人とビジネスで避けるべき話題とは?

