創業110年 新宿の『寿司三ます』が地元とインバウンドに愛され続けるわけ

ホームページがなく、SNSの発信もせず、入口の看板の電球が切れていることもある。それでも地元の人たちに愛され、世界各地から旅行者が目指すお寿司屋さんがご近所にあります。私のブログやYouTube動画のなかで外国人観光客との交流の話が出てきます。そのうちのいくつかはこちらのお寿司屋さんでのやり取りが元になっています。

三ますという店

オヤジさんが子どものころ、玄関を開けるとすぐに舗装していない土の道だったそうだ。
今は舗装された2車線道路の向こうに四谷区民センターがどっかりとそびえ立ち、右どなりにはタワマンが建設中。
ビルの谷間の日陰で押しつぶされそうな小さな4階建ビルの一階に、寿司三ますがある。
2階、3階は家族の住まいで洗濯物が干してある。創業明治43年の寿司屋は今年で114年、今の大将で5代目だという。

木製のおしぼり受けは、角が丸くすり減って、木の葉型になっている。明治、大正、昭和、平成の時間をこのカウンターでお役目を果たしてきた。
右端がかぎ型に曲がった長いカウンターは10人はいればいっぱいで、ほかには背中側に一つ、カウンターが曲がった先に一つテーブルがあるだけの小さな店だ。

この店の客はコントラストが面白い。長年の馴染み客と、ここ数年来るようになった世界各国からのインバウンドだ。
イタリア、タイ、中国、韓国、アメリカ、フランス、オーストラリア、イギリス。
どうやら海外人気の元はエクスペディアやトリップアドバイザーの口コミで、カップルや少人数のグループが予約なしで来る。
ネットの口コミはどれも「本物の江戸前寿司が手ごろな値段で食べられる」「家族だけでやっている、ゆったりとした親切な店」といったものばかりで
この評判は日本語の口コミでも変わらない。

オンラインの予約システムは入れていない。だから海外組は予約なしで恐る恐る入ってくる。
Facebookも、インスタもやってないし、店の看板の電球が切れて真っ暗なときさえある。

土曜日に行くと、私一人で貸し切りの時もある。
そんな時はオヤジさん、いつもはホールでひとり忙しい奥さん、息子の若大将の4人で世間話、プライベート話に花が咲く。
お客が来なければ「もう閉めちゃおうか」と閉店にする。

英語を話さないオヤジさんの客あしらいはだれでも包み込むLOVEだと思う

78歳のオヤジさんはいつも笑顔で、同じ昔話を繰り返す。
ぱっくり開けた口の中に歯が何本かないのが丸見えでも本人はまったく気にしていない。
大きな病を何度も乗り越えたそうだ。奥さんに「もう、ボケちゃってるのよ」と笑われながらも、カウンターに立っている若大将の横にいて、
手が足りないときは言われなくてもあうんの呼吸で巻物や握りを準備する。

3人のうち、だれも英語を話さない。でも外国人客がやって来ても楽しんで、ネットに絶賛のコメントを残すのはオヤジさんの客あしらいによるところが大きい。
おずおずと入ってきてカウンターに座ったおひとり様の外国人にもすかさず声を掛ける。
「トラベラー?スチューデント?」。「ホワットカントリー?」

メニューなんて気の利いたものはない。壁にかかった小さなホワイトボードに「松 4,000円、竹 2,500円」とだけ日本語で書いてある。
「ベストと、ベターね」と声を掛けて、それで通じなければオヤジさんは店の入り口から食品サンプルの一人前をもってきて、カウンターの上に置く。
「あとはお好みで言ってください」。

お好みは壁に貼ってあるイラストと英語名のシートを指さすか、お互いがカタコトの英単語でなんとか通じたことにしている。
かつてはオヤジさんがお気に入りの寿司のイラストと英語名のついた大ぶりのお湯飲みが活躍していた。
でもあるとき外国人客にそれを見せたら、プレゼントと勘違いされて「持って帰っちゃったんだよ」としょんぼりしていた。
返して、という英語が出なかった。

流行りの寿司屋と決定的に違うこと

私も初めて来たときにはぎょっとした。

冷蔵ケースが空っぽでパセリだけ何本か隅っこに横たわっている。今日はネタがないのか?と驚いたが、「青魚あります?」と聞いたら奥からアルミのケースを持ってきて、取り出した固まりを目の前で一切れずつ切って握る。

だからウマい。
切りたての刺身で握る寿司は舌に触る表面がしっとりとしていて魚の香りがする。店が混んでくると大変な手間になるはずだ。
特に外国人客は、せっかく日本まで来たのだからとひとりひとりがアラカルトで次々に注文する。
それでも一切れ一切れ身を傾けて横から厚みを見ながら切り分けて握る。

最近のすし屋はおまかせコースの店が主流になりつつある。何々流、活き締めの寿司。
大将にお任せコース。寿司10カン、つまみ8皿で1万2千円から。飲物別。

寿司って予約して行くそんな高級コース料理だったっけ?
わたし的には1日の仕事が終わってほっとしたくて、家を出て、カウンターで瓶ビールを飲みながらちょちょっとつまんでから、気分で食べたいものをあれとあれ、と握ってもらう。
長っ尻せずにおやすみなさいと帰るのが理想の寿司屋だ。

コロナの前に、ウチから1分のところに今どきの寿司屋ができた。
大々的にクラウドファンディングで会員を募り、インスタにインフルエンサーの若い女性がセクシーな姿で寿司を食べる姿を載せて宣伝した。
ラインも毎日流した。大将は山形の人で、素朴で実直な寿司を握りたがっていたけれど、数店舗を経営する社長は今どきの方針に固執した。
高級すしコース2種類。お好みは受け付けない。地元の客はつかなかった。一度看板を下ろして、再出発したけれど、ほどなくして閉店した。
多分銀座あたりで接待用の店だったら続いていたかもしれない。

三ますへのラブレター

三ますはまだまだ続くだろう。戦争があっても大震災があっても、できることだけ一つ一つ丁寧にやって来た店だ。
オヤジさんも若大将も大学を出ている。でも小さいころから「大人になったら寿司屋を継ぐんだよ」と言われながら育った。
そして毎朝バイクで半蔵門まで出たら右折して豊洲に通う。

帰ったら小肌もアナゴも干瓢も卵焼きも家で作る。
だから「小肌は4日目と1日目、食べ比べますか?」なんていうお楽しみがある。
引越し好きの私が今のところにまる6年住んで、まだ住み続けたいと思う理由の一つは間違いなくこの寿司屋のせいだ。ずっと続いてほしい。
「これからもお世話になります。オヤジさん長生きしてください」。
たまにシャッターが下りたままの日が続くとそう祈らずにいられない。


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この記事を書いた人

仕事の英語パーソナルトレーナー
HR Specialist
河野 木綿子(こうの ゆうこ)

ロンドン大学 Goldsmiths College 2000年
心理学部 大学院卒業

テストの高得点者が話せるようになるお手伝いをしています。
25年間大手外資系企業の人事部に勤め、人材開発の専門家となる。その経験とロンドン大学大学院で学んだ学習理論と効果測定を活かし、日本で第1号となる仕事の英語パーソナルトレーナーを2014年に開業。
著名人含む約90名を、仕事の英語デビューに導いてきた実績を持つ。

【保有資格】
・ケンブリッジ英検
・IELTS 7.5 ※旧英連邦の英語4スキルテスト
・英国心理学協会の能力・適性テストの実施資格※
※企業で面接、適性検査、能力検査を実施する資格

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