異文化生活: イギリスの日常生活の中に根付いているパブの話

Pub in US

20代の後半にイギリス人の中で仕事をしていた時期と、30代後半でロンドン大学に留学したことがきっかけで、それ以来私にとってパブは身近な、心安らぐ存在でした。
修士論文を書いていて頭の中が行き詰まったときや、卒業試験のための勉強に疲れた日曜日の午後など、1人でふらりと学生寮の裏にある公園の中のパブに行ったものです。

店内はやや照明を落としていて、ほんの小一時間静かに座って1パイントのビールを飲むだけで気分転換になり、救われたものです。
今では東京都心にもブリティッシュパブ、アイリッシュパブが見られるようになりましたが、ロンドンやアイルランドの首都ダブリンで体験した本場のパブの見聞録を記したいと思います。

入店しても席に案内されない、注文を聞きに来ない

パブに入店しても「いらっしゃいませ」と声を掛けられて席に案内されることはありません。
まずはカウンターに行って、自分で飲物を注文します。
注文の仕方は基本、1パイント単位ですがハーフパイントもあります。昔は女性は1パイントを頼むのははしたない、という声もあったそうですが今ではそういった性差による偏見はなくなったそうです。

注文の仕方は 
A pint of Stella Artois, please.
Can I have a pint of Stella Artois, please?
のように

自分が飲みたい銘柄を指定します。するとバーマンやバーメイドがカウンターの上に並んだタップ(注ぎ口)のうち、指定された銘柄のタップのハンドルを手前に引きながら1パイントグラスにビールを2回くらいに分けて注いでくれます。盛り上がったアワ(Head)はナイフでサッとそぎ落としてからグラスをバータオルの上に置いてくれます。

バータオルとはカウンターの上に敷いてある幅の狭いタオルで、グラスから滴るビールグラスを、その上に一度置くことでぬぐうためのものです。
ビール代をその場で支払ってから、バータオルの上に置かれた自分のパイントを持って店内の好きな場所に落ち着きます。
1パイントを飲み干しても、お代わりの希望を聞きに来ることはないので、自分で空になったグラスをカウンターに返しながら、次の一杯を買うことになります。

注: Stella Artois はベルギーのビールで日本のラガービールに一番近い気がします。

Stella Artois

アイルランドの有名なビールGuinnessの場合は、カウンターで渡されたときはアワと本体が混ざっていて薄茶色ですが、それを席に持ち帰り2,3分待つとHeadの部分と黒に近い液体部分がはっきり分かれて、飲み頃になります。

Headと液体がきれいに分かれたGuinness

このときグラスの腹をフォークで叩くと澄んだ音がして「飲みごろ」だとわかります。
ダブリンにあるGuinnessの本社でオフィスツアーに参加してGuinnessの注ぎ方の講習に参加したことがありますが,
Guinnessは原材料が多岐にわたり、ホップと麦で作る普通のビールとは別の飲み物だと思いました。
講習が終ると参加者全員で記念写真を撮って、それを希望のメールアドレスに後日送ってくれます。

割り勘ではなく「ラウンド制」で順番にビールを買う

パブにグループで来ている人たちは、飲物のお代わりをするとき、ラウンドといって誰か一人が全員分をカウンターで買って他のメンバーに奢ります。順番に奢り役になるので自然と割り勘になるわけです。でもこれがデキるのは、みんながアルコールに強くて同じペースで飲めるという言なんですね。体力勝負な気がします。また何時間もの間立ちっぱなしで飲みながらおしゃべりに興じる人達も珍しくなく、そこでも日本人と彼らとの間の体力差を感じます。

余談ですが、私の親友の旦那さん、Davidはアイルランド人です。パブでの待ち合わせに遅れたときに「他のメンバーにCatch upしなきゃ」と言いながらギネスを立て続けに3杯(3パイント)のみ干しました。日本で言う「駆けつけ三杯」とはスケールが違います。

巨大スクリーンでスポーツ観戦、盛り上がる夜

個人的には、穏やかにおしゃべりをしながら飲むのが好きです。でも人気のあるパブは人がたくさんいる上に、みな大きな声で話すので「叫び合う」レベルの声をお互いに出し合わないと会話になりません。日本人の私は自分が言いたいことは大声で叫べば事足りますが、雑音にまぎれた英語の聞き取りはなかなか難しいです。

さらに店内で大きなモニターでスポーツ中継を流している店もあり、サッカーの試合の中継があるときは昼間から店の前に出ている立て看板には
England v.s. Scotland 6:00 Onwards
というように表示が出ています。

そんな夜はパブは超満員で、大勢でビールを飲みながら盛り上がります。でも応援チームが勝てばいいのですが、負けたときは大変です。
翌朝、店の前を通りかかると割れたグラスやビールの小瓶が投げ捨てられていたり、車道と歩道を区切る杭が掘り起こされて倒れていたりと、さぞや大荒れだっただろうという痕跡があります。

当時私が見た最大のパブでの盛り上がりは、ロンドンのセントラルのパブで3人のビジネスウーマンがビジネススーツにハイヒールで大きなテーブルに乗って。ABBAのDancing Queenを唄いながらヒールをガンガン鳴らして踊り狂っていたという、ある意味「事件」でした。多分ロンドンの金融街 City の会社員たちだったと思います。

パブご飯の話(パブめし)

食事メニューは、ある店とない店があります。
食事を出さないパブだと、カウンター周りにスナックの小袋がカゴに入れられたりするのでそれをカウンターで支払って買います。中身はCrisps(ポテトチップ)やナッツなど、日本で言うところの乾きものが中心です。

一方、食事を出すパブでは Fish and Chips が大きな銀皿で出されて、魚のフライとフライドポテトの下に、グリーンピースとコーンが敷き詰められていて、大食いでない私はとうてい全部平らげることが出来ないほどの量です。

また、Shepher’s Pie は味付けしたひき肉の上にマッシュポテトを乗せて、こんがり焼いたもので、私の好物のひとつでした。大学の近所の場プでは私がいた当時、タイ料理を名物として出していましたが、最近 Google Mapで確認したら、お店が代替わりして他の店名になっていました。

アイルランドでのパブ体験: 人懐こい人たち

アイルランドに行ったのは、かれこれ10年近く前になります。
アイルランドでは昼間の仕事を終えた人たちがパブに集まって各自の楽器でセッション(合奏)に参加すると聞いたので、現地に聴きに行ったのです。

東京では知り合いのつてでパブでのセッションを既に何度も聴きに通っていましたが、現地では熱量が違いました。
長年の知り合い同士が集まって、それぞれが得意な楽器で古くから伝わる伝統音楽を合奏します。譜面が無くて、みなメロディを聞き覚えて演奏できるように練習するそうです。だれかが弾き始めた曲を他の人たちがそれに併せて演奏が始まりまって熱を帯びてきます。

そして一番印象的だったのが、東洋人の一見さんである私を、お店の常連客達が暖かく迎えてくれたことです。すぐに声を掛けてくれ、名前を聞かれて告げると、次の日に同じ店に行って会った時に、名前で呼んでくれます。
ダブリンのあるパブでは「せっかく日本から来たんだから、日本の歌を歌って」と言われて「山の音楽家」の歌をその場で唄いました。
初めに子リスのバイオリンや、タヌキと腹づつみの説明をしてから唄って拍手喝さいを頂きました。

また、ダブリンから列車に乗って西へアイルランドを横断し、西海岸のGoalwayまで遠征しました。その時も1人で店に入って行来た私を手招きして、演奏中の輪の中に座らせてくれました。イギリス人は紹介されない限り、親しく話すことはないのですが(私の知っている限り)、アイルランドの人は本当にお互いの心の距離が近いと感じました。

ダブリンについて初日、セッションで有名なCobblestoneに行った時のことです。まだ少し早い時間でしたが、ドアを押して入ると店の中でサムライのコスプレをしたお店のスタッフが馴染みのお客さんとチャンバラごっこをしていたのです。
サムライのマネをしているところに、とつぜん本物の日本人が入って来たので、とてもびっくりされましたが、あたたかく迎えてくれました。その店にダブリンでの滞在中3度くらい通い、地元の人たちと様々な話をしました。

下の写真はCobblestoneでのサムライとの出逢い、店内とセッションの様子です。

この記事を書いた人

仕事の英語パーソナルトレーナー
HR Specialist
河野 木綿子(こうの ゆうこ)

ロンドン大学 Goldsmiths College 2000年
心理学部 大学院卒業

テストの高得点者が話せるようになるお手伝いをしています。
25年間大手外資系企業の人事部に勤め、人材開発の専門家となる。その経験とロンドン大学大学院で学んだ学習理論と効果測定を活かし、日本で第1号となる仕事の英語パーソナルトレーナーを2014年に開業。
著名人含む約90名を、仕事の英語デビューに導いてきた実績を持つ。

【保有資格】
・ケンブリッジ英検
・IELTS 7.5 ※旧英連邦の英語4スキルテスト
・英国心理学協会の能力・適性テストの実施資格※
※企業で面接、適性検査、能力検査を実施する資格

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