ひとり海外出張のトラブルは落ち着きと交渉力で解決:火山噴火でフライトと会議キャンセルから生還

この記事は出先で単独で問題解決に当たる際の、心構え、交渉の仕方に焦点を当てた経験談です。

火山の爆発によって路線を変え、やっとたどり着いたら会議が延期になっていたという前代未聞の出来事がありました。

国際会議に参加するということは、会社の日本代表です。
自分の発言、行動が日本組織の社員全体に影響を残すことを忘れず、私利私欲を捨てて解決に向けて交渉します。

Volcanic Eruption in Iceland

ミュンヘンの人事プロジェクト会議

成田エクスプレスで飛行機の欠航を知る

アイスランドの火山がたびたび噴火するのはよく知られています。この事件が起きたのは2010年3月から6月にかけての噴火のさなかでした。

私はゴールデンウィーク明けにミュンヘンの会議に旅立ちました。

各国から人事のプロジェクトの推進者(Championと呼ばれます)が集まり、ドイツ本社のプロジェクトチームと情報交換をするミーティングに出るためです。


東京~成田空港間の成田エクスプレスの車中には進行方向前方に、航空便の運行情報が上から下へ流れていく電光掲示板があります。私が乗るのはルフトハンザ航空のミュンヘン行きです。その便の表示の右端に「欠航」とあったのです。見間違いかと思い目を凝らして掲示板を見続けると1周めぐって再度「欠航」の文字が。
もう「欠航は間違いない」と覚悟を決めて空港に着くとルフトハンザのカウンターに突進しました。

オランダ スキポール空港を経由してミュンヘンへ

カウンターについて「どうしたらいいのか」質問をする前に、きわめて事務的にボーディングパスを渡されました。見るとオランダKLM航空のものです。

行先はオランダアムステルダムのスキポール空港。2度ほど行ったことがありました。そこを経由して目的地のミュンヘンに飛ぶことになりました。

KLMの機内ではつとめて身体を休ようと始終横になっていました。ただでさえ、大きな予定変更で精神的ストレスがたまりそうです。せめて身体だけでも楽をさせようと思いました。

トランジットの待ち時間が4時間くらいだったと思います。
ぼやいても仕方がないので、楽しむことにして、空港内のバーカウンターで白ワインを飲みながら生ガキを食べたり、そのあとでガラガラのミュンヘン行のロビーで本を読んだり転寝をしたり。

飛行機が飛んでようやくミュンヘンに着いた時には夜中の11時を回っていました。
その時間のミュンヘン空港は照明も人影もまばらで、襲われたらどうしようと荷物をガラガラ引きながら、最速で歩きました。

深夜の空港からミュンヘンの街へ。そしてチェックイン

空港の出口は思いがけず、ただのガラスのドアで何の表示板もありません。外へ出るとそこがタクシー乗り場。
黒いセダンが一台だけ留まっていてほかに選択肢はありません。でも運転手は地味で実直な感じの人だったので信用して乗ることにしました。

「もう間もなく家を出てから23時間なの。火山のおかげで乗換えして」と私がぼやいたら「それは大変な一日だったね」と返してくれました。
車窓からはオレンジ色の照明に照らし出された有名なドイツのアウトバーンが先へ先へ伸びていて、その先に目指すホテルが現れることを心待ちにしながら、ほどなくして街につきました。

タクシーがホテル前にとまってから荷物を降ろしてもらい、ドアを開けて入るとカウンターへ向かいました。
当然、宿泊予約をしてあったので自分の名前と前泊地TOKYOを記入した後で

Could you tell me which room our meeting will take place in tomorrow morning?
あすの朝の私たちのミーティングはどこの部屋ですか?

と聞いたところ「どちらの会社ですか?」と聞かれたので会社名を告げたところ。。。。

No reservation for 〇〇, Ma’am.

という思いがけない一言が。
そのスタッフは続けていくつかの会社の名前をあげてくれましたが、私の所属会社の名前は出てきません。

これはなにか手違いがあったな。とあきらめ

That’s OK, thank you.
I’ll check by myself, good night.

と告げて部屋に向かいました。

すでに真夜中の24時を回っていましたのでオフィスに電話したところで誰も出ないでしょう。
でも、電話して3つのことを留守電に残しておきました。

私がミュンヘンに着いてホテルにいること。
明日はホテルでのミーティングの予定がないそうなので、何が起きたのか知りたいこと。
明日の朝、連絡をください。


バスタブのある部屋を予約したので、お風呂で温まってぐっすり眠ろうと思ったら。。。バスタブなしのガラス張りのシャワーブースだけの部屋。
このときほど

Nothing goes well.

と強い絶望感をいだいたことはありません。
気を取り直そうと、部屋のミニバーを開けて小ビンの飲物を飲み干して眠りにつきました。

こういう時は気を取り直してできることをするのが回復への第一歩です。

ダイレクターとの面会。笑い事じゃないから代案を交渉する

予定通り、朝いちばんに部屋の電話がなり、ダイレクターの声が響きます。

今、私のセクレタリーがタクシーであなたをピックアップに向かっているから待っていてね。
詳しくはオフィスで話しましょう。

電話でやり取りするより、オフィスで落ち着いて話したほうが良さそうなので、セクレタリーの到着を待ってオフィスに向かいました。

ビルについてダイレクターの部屋に案内されると黄色いスーツを着た大柄な女性が小さなテーブルの前にイスを置いて座っていました。

Hi, Yuko.
How are you?


もちろん私は絶好調のはずがありません。まる1日飛行機と真夜中のタクシーを乗り継いで東京からミュンヘンまで飛んで、会議がない?かもしれない。

Thank you.
Bit tired.


お愛想を言いたい場面ではないので「ありがとう。ちょっと疲れてます」と本心を言いました。
指定のホテルで会議がなくなっていた原因は;

My assistant sent an email on the schedule change with an old mailing list, and
you weren’t on it.
You’re the newest member of this project.

アシスタントがあなたが載っていないメーリングリストでスケジュール変更のメールを出したんです。
あなたが一番新しいプロジェクトメンバーだったから。

And, you are here in my office this morning!
それであなたが今朝ここにいる!(笑

そして笑い声をあげたのですよ。
すかさず静かに言い返しました。愛想笑いもせずに。

That’s NOT funny at all.
ぜんぜん面白くありません。

(正直、今これを書いていてもちょっとムカムカしますよ)


そして沈黙。。。

ここから交渉に入ります。

I’m afraid I cannot come back to Tokyo without the outcome of this business trip.
出張の成果なして手ぶらで東京には帰れません。

I sorted out my meetings and business trips to participate in this project meeting.
このプロジェクトミーティングのために、出張やミーティングの予定を調整しました。

It doesn’t make sense for me to come back to Munich in two weeks again.
2週間後にもう一度ミュンヘンに戻ってくるのは私にとってはナンセンスです。

Could you consider and suggest what I can do with your project members during my stay in Munich?
プロジェクトのメンバーと私がミュンヘンにいる間にできることを考えて提案していただけますか?

今振り返ってもかなり強硬な姿勢で通しました。

それはそうです。いくら相手が本社の偉い人でも、相手の言いなりになって、その結果、日本人社員のお役に立つことがなにもできないなんて。

この会話の後でダイレクターが提案したのが以下のことでした。

・ミーティングは2週間先なので資料は未完成だけれど、あなたと6つのプロジェクトチームごとのミーティングを設定する。
・グローバルメンバー全員でやるセッションより時間がかからないので、その分、エアランゲンの研究所を訪問できるよう手配する。
・時間の調整と手配関係は全てこちらでやる。

Munich 2010

この時のミュンヘンでの滞在日数は5日間でした。

6つのプロジェクトチームと、1日に2チームずつミーティングができたほか、夕飯は現地の郷土料理の店に連れて行っていただきました。
もしこれが本番の世界中の人たちとのディナーだったらホテルのレストランで標準的なコースだったかもしれません。

ミーティングが一通り済んだ後は、北方のエアランゲンという街に1泊して研究所を訪問し、そこでも館内ツアーをしてもらうなど結果的には充実した出張となりました。

まとめ 想定外のできごとに慌てない


真夜中にホテルにチェックインしたときに「会議の予定がない」と聞いたとき。正直、膝から崩れ落ちそうな気持になりました。

東京の家を朝7時ごろ出て、火山噴火で直行便がキャンセルになったため、飛行機を乗り継いで23時間かけて到着。
そうしたら会議がない!

その時、オフィスに電話をかけて伝言を残したのは正解だったと思います。というのは、そのおかげで朝一番に先方が対応できたからです。

これがオフィスアワーが始まってからだったとすると、決定権のある人(ダイレクター)は不在になっていた可能性があります。

よく海外出張に想定外はつきもの、と言われますが幸いにも私の場合はこの時だけでした。

想定外のことが起きたときこそ、平常心を保って「元々の目的は何なのか?」を考え、回復に向けてできる最善の手を打つ。目的達成のために主張すべきことは主張する。

とてもいい経験をしたと思います。

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この記事を書いた人

仕事の英語パーソナルトレーナー
HR Specialist
河野 木綿子(こうの ゆうこ)

ロンドン大学 Goldsmiths College 2000年
心理学部 大学院卒業

テストの高得点者が話せるようになるお手伝いをしています。
25年間大手外資系企業の人事部に勤め、人材開発の専門家となる。その経験とロンドン大学大学院で学んだ学習理論と効果測定を活かし、日本で第1号となる仕事の英語パーソナルトレーナーを2014年に開業。
著名人含む約90名を、仕事の英語デビューに導いてきた実績を持つ。

【保有資格】
・ケンブリッジ英検
・IELTS 7.5 ※旧英連邦の英語4スキルテスト
・英国心理学協会の能力・適性テストの実施資格※
※企業で面接、適性検査、能力検査を実施する資格

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